小久保裕介は大学院に進み、研究テーマとして氷河地形の調査に打ち込んだ。国内での氷河地形の研究は、古くから北アルプスが対象であった。先輩の岡澤修一が南アルプス南部の赤石岳周辺に着目してから、南アルプスが一挙に注目されるエリアとなる。そこで小久保は南アルプスを研究エリアに選び、現地調査に加えて空中写真を判読して、立体的な資料から氷河地形の分布を明らかにした。
小久保は北岳・大樺沢の氷河地形を調べ、「南アルプス北部、北岳・大樺沢の氷河地形」を本学大学院地理学研究室研究報告にまとめる。この中で彼は、大樺沢に4組のモレーン分布があることを明らかにし、3地点において氷河底ティル(氷河底で生成された堆積物)が分布すると発表した。
このほかに「大樺沢におけるリッジ状堆積物地形の分布」を発表し、大樺沢の氷食地形とそこに分布するリッジ状の堆積地形について報告した。また、「南アルプス、北岳・大樺沢の標高1650~1800m付近に分布するモレーン」という論文も発表している。
埼玉県狭山市出身の小久保裕介は2001(平成13)年4月、文学部史学地理学科に入学する(山岳部は2年時の2002年入部)。この学科に在籍した山岳部員には岡澤をはじめ、原田暁之や高橋和弘など錚々たる先輩がいた。こうした研究調査には、同じ史学地理学科の恩師で、山岳部長の小疇尚先生から助言や温かい励ましがあった。
山岳部から大学院に進んだ小久保に、恩師から海外実習の誘いが舞い込む。2006(平成18)年9月3日から23日まで、小疇先生、先生の友人、そして地理学専攻の先輩たち総勢9名で、ブルガリア、スロベニア、クロアチアの山を巡る旅に向かった。いずれも氷河地形を勉強するには格好の山で、U字谷やカールの中に氷河湖が見られ、日本とは違う山岳地形を観察できる機会を得た。
また、2008(平成20)年9月、小久保は小疇先生と2人で20日間ほど、ルーマニア、モンテネグロ、クロアチアを訪れる。この地域の山々は標高3000m未満で、北緯40度付近に位置しているため、氷河地形をはじめとして日本アルプスと似た景観を有している。この地域で、日本アルプスと比較しながら氷河地形を調べる貴重な経験を積んだ。
こうして小久保裕介は、恩師・小疇尚先生の薫陶を受けながら、国内はもちろん海外での氷河地形の研究に勤しんだ。