特別企画展の案内:「植村直己・わが青春の山岳部」

故 飯田 貞夫(昭和22年入部)

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基本情報

遭難発生日1952(昭和27)年 3 月 12 日(推定)
山行計画昭和26年度春山合宿:早月尾根から極地法で剱岳にアタック、同時に高所幕営して八ツ峰など剱岳周辺の登攀
遭難場所剱岳・早月尾根の松尾平(疲労凍死)
山行メンバーCL=高橋進(昭和24年入部 3 年)
L=金澤恒雄、清水稔、鵜野悟郎(全員昭和23〜24年入部 3 年)
正部員=向井良一、飯田貞夫、中尾正武、古谷二郎(いずれも3年)、中村雅保、田辺史、相蘇良正(いずれも2年)
新人=藤田佳宏、窪田知雄、大石克一
同行OB=細田公男(同26年卒)計15名

遭難概要

 1952年2月29日、春山合宿の本隊は馬場島に入り、翌3月1日から登山活動に入った。飯田貞夫は仕事と家庭の諸事情で本隊から大幅に遅れ、3月9日、独りで春山合宿に向かった。

 10日、上市に着き馬場島へ向かう。午後4時30分、馬場島に着き、無人の馬場島小屋は不便なので、隣の白萩発電所の馬場島取入口小屋に入る。この小屋には所員が常駐し、飯田はここで世話になる。彼は炊いた米を夜と翌日の朝に食べたが、若干残した。

 本隊の各キャンプが悪天候で停滞した11日、飯田は7時30分、約20㎏弱の荷物を背負い、シールなしのスキーで小屋を発った。本隊のラッセルの跡も残っていて、BCまで5時間余りだろうと目論んで登ると、シールなしのスキーは後ずさりし、小屋から300mの地点でスキーをデポし、ワカンに替えた。

 本隊が1200m地点に作った中継キャンプ跡地を過ぎると傾斜が急になり、ワカンを脱ぎアイゼンに履き替える。このころより天候が次第に悪くなり、風とともに雪が加わる荒れ模様となった。入山2日目で体の調子が出ないなか、さらに風雪が勢いを増し、独りで登るのがきつくなり体力の消耗も激しかった。

 1600m付近に達したころには風雪の強さは最高潮となり、飯田は前進するか戻るか悩んだようだ。夕方5時ごろ、飯田はビバークを覚悟し、この付近の木の枝を雪面に敷き休息した。しかし、ここで夜を過ごすよりは、下山して小屋に戻った方が安全と判断し下り始める。

 もうすぐ中継キャンプ跡地に着くと思いながら、重い足取りでラッセルしつつ独りで下った。しかし、夜の帳が降りると寒さに疲労が重なり、風雪を避けるため杉の巨木の根元で小休止する。寒いので持参した携帯燃料を焚き、新しい手袋に替えて暖を取っているうちに睡魔に襲われ、飯田はまどろんでしまった。

 翌12日になっても目を覚ますことなく、眠るように疲労凍死してしまった。

遺体発見とその後

 13日、金澤が所用で合宿を離れることになり、C1を朝8時に出発して下った。1600m付近に露営の跡らしきものがあり、そこから下にラッセルして歩いたような踏み跡が続いていた。

 午前10時ごろ、松尾平の上の方で人が寝ているのを認め、不審に思って近付くと飯田であった。金澤は飯田が寝ていると思い、寒いだろうと自分のセーターを取り出しかけたが、腕はこわばり、ハッと思って頬を触ると冷たく、ヤッケの下に手を入れて鼓動を確かめると反応はなかった。

 金澤が「飯田さ~ん!」と呼べど返事はなく、事の重大さに驚く。飯田は目を半眼に開いて頭を木の根元に置き、手を腹部に組んで、仰向けのままで眠るように横たわっていた。ザックを右側に、ピッケルを雪面に刺し、ピッケル・バンドには凍った手袋が挟み込まれていた。その脇に食器が2個転がり、身体にはほとんど雪は積もっていなかった。

 この飯田の死を部員たちに知らせるため、金澤は急遽C1に引き返し、本隊に緊急連絡用の赤色発煙筒を焚いた。チーフリーダーの高橋がC1に到着し、今後の方策を検討した結果、登山中止の連絡を各キャンプに発し、速やかに撤収するよう伝えた。

 高橋と金澤の2人は現場に向かい、改めて詳細に検査したが、死亡の直接原因は認められず、風雪のため疲労による凍死と推定された。その後、白萩発電所の馬場島取入口小屋に下り電話で東京本部へ連絡、また、現地警察と役場へ報告、人夫の手配を行った。

 春山合宿での飯田の死亡は、本隊から遅れて独り入山しなければならないケースで起きた悲運な遭難であった。当初3月4日に出発するはずだったが、5日遅れの3月9日になってしまい、中継キャンプはすでに撤収されていた。

 馬場島から最も近いキャンプ地はBCの2000m地点であり、距離と高度差が大きかった。また、本隊は高所キャンプ地で実動中というタイムラグも生じていた。

 飯田は一家の大黒柱で、2人の子どもの父親として戦後の苦しい時代をひたむきに生きる山男であった。戦後初めての遭難は、あまりにも非情な旅立ちとなってしまった。

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