特別企画展の案内:「植村直己・わが青春の山岳部」

故 松本 明(昭和54年入部)

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基本情報

遭難発生日1979(昭和54)年 7 月 30 日
山行計画夏山合宿
遭難場所南アルプス・笊ヶ岳の猿公平
山行メンバー本隊
CL=中西紀夫(昭和51年入部 4 年)、SL=吉田湖丘夫(同52年入部 3 年)
部員=横掘正基(同51年入部 3 年)、倉津静子(同52年入部 3 年)、高野剛(同53年入部 2 年)、金子文雄(同53年入部 2 年)、中村明克(同53年入部 2 年)
新人(同54年入部)=松本明、米山芳樹、大川真、植松信吉 計11名
同行OB=長谷川良典(同44年卒)

事故概要

 この年の夏山合宿は、中西紀夫をリーダーとする新人強化の本隊と、上級生強化を目的に上級生A隊(CL=佐久間一嘉以下 3 名)、上級生B隊(CL=綱川雅之以下 3 名)の 3 隊が南アルプスに入った。本隊は7月29日、新宿を発ち、甲府、身延で乗り換え白石に着く。この日の幕営は、白石集落より保川上流の砂防ダム下となる。

 翌30日、朝5時20分に幕営地を出発、保川の右岸沿いに行き吊橋を渡って左岸に移る。間もなく猿公平への急登が始まると、1年生の植松が遅れ始めた。途中で長谷川OBと合流した後、猿公平の小屋下で昼食を摂り、再び登山を始める。

 やはり植松が遅れるので上級生の吉田と高野を付けて離す。このころから松本明が遅れだし、ペースを落として登っていく。ちょっとした段差を乗り越えた所で、松本がうつ伏せの格好で谷側に転倒(11時20分)したので、横堀が松本からザックを外し、登山道に引き上げて寝かせた。

 その時点で意識が曖昧だったので、約10m先の平坦地に運び、休ませることにした。20分ほどしてから松本が「倒れたのですか?」と言い、意識を取り戻した様子だが、本人は倒れてからのことを全く覚えていないと言う。

 しばらくして、遅れていた植松と同行の吉田と高野が追い付いた。そこで、松本に吉田と高野を付け、本隊は12時20分、植松をサポートしながら先行する。

 松本に付き添った吉田と高野は、様子を見るためしばらく休憩したが、松本は出発できる状態ではないと判断、高野が本隊へ連絡に向かった。高野は13時20分、本隊に追い付き、松本が歩行困難な状態になった旨をリーダーの中西に伝えた。そこで13時25分、長谷川OBが高野と一緒に松本の様子を見るため下った。

 その後、松本は転倒直後より呼吸が落ち着いてきたので14時10分、歩行を始めた。膝と腕は痙攣していたが、これは筋肉疲労と思われたので、松本を空身にして荷物を長谷川OBが背負い、高野、松本、吉田、長谷川OBの順で出発する。

 急なジグザグの登りでは何度か立ち止まらせ、ゆっくりしたペースで登った。20分ほど登った所で松本は用便を済ませ、それから10分ほど登った所で足がもつれだす。再び登山道を外れて谷側によろけ込んでしまうので、楽な姿勢で休めるよう、山側の斜面に松本の背をもたせかけるように座らせた。

 しばらくしてから缶ジュースを渡したが、飲むことを拒んだ。休憩中、松本は激しくあえぐような呼吸を続けていたが、やがて引き付けを起こしたような呼吸に変わり、同時に白眼の状態になった。横に寝かせて様子を見守るうちに状況はさらに悪化、あえぎが止まらずやがて15時10分、呼吸が停止した。ただちに長谷川OBがマウス・トウ・マウス法で人工呼吸を施す。現場に戻った中西も加わり、交代で人工呼吸を続けた。

 しかし、人工呼吸を開始してから2時間後の17時10分、瞳孔反応、脈拍がなくなり、手足が硬直した。合流した部員が見守る中で、長谷川OBにより死亡が判断された。松本の遺体をシュラフとツェルトにくるみ、補助ザイルで固定し黙禱を捧げた。この後、合宿の中止を決め18時25分、猿公平にある第一製材の小屋に集結する。

 中西、吉田、高野の3名は、警察と東京本部への連絡のため白石集落に下った。

遭難の要因

 夏山合宿の入山2日目、新入部員の体調不良から起きた事故で、ちょうど20年前に起きた右川俊雄の病死と似たケースであった。合宿前には大学近郊でトレーニングを重ね、事前の健康診断も実施していたが、松本の体調管理において、見過ごすような何かがあったのだろうか。またも新人の怪我や体調には、特段の配慮が求められることを痛感する事故となった。

 右川俊雄と松本明の2人の死に共通しているのは、いずれも長期間にわたる夏山合宿の初めに起きている。すなわち、夏山合宿の初日や活動開始して間もないころに体調不良を訴えている。このことは、新人部員が初めて経験する夏山合宿では重いザックを背負い、まだ暑さに慣れない時点でつまずくケースが多いことを証明している。

 右川俊雄と松本明2人の死を無駄にしないためにも、炎天下での夏山合宿では、新人部員の体調管理に特に注意を払わなければならない。

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