この記事では、明治大学山岳部の『設立趣意書』、『山岳部の設立』、『ろばた会の設立』を原文のまま掲載いたします。この趣意書は、自然に対する深い敬意と、山岳を通じて人間の精神を高めようとする強い信念が込められており、当時の学生たちの情熱がひしひしと伝わってきます。現代に至るまで、山岳部はその理念を受け継ぎながら、部員たちの成長の場となり続けています。
設立から約100年が経過した今、この設立趣意書は、部の歴史を振り返り、先人たちの思いを改めて感じる貴重な資料です。今回は解説を加えず、純粋に原本そのものを掲載することで、当時の言葉や雰囲気をそのまま読者の皆様に感じ取っていただければと思います。ぜひ、山岳部設立時の志を感じながらお読みください。
設立趣意書
人間が自然の力を外界に向って験そうとしなかった時代はいざ知らず、一度其の力を外界に向って放さうとした時、彼等の前には偉大なる山岳が聳えて居りました。而して其の山岳を征服して彼等は、今まで何とも感じなかった山岳に対して崇高な、そして荘厳な感に触れる様になったのであります。此処に初めて山岳を渇仰する念が、湧いて来たのであります。
ラスキンは、山岳は地上に於ける永久不変の記念物だと言って居ります。元より山岳は一塊の岩石の集団でありますけれども、一度人間の絶大なる力に依って征服さる時は、忽ち一塊の岩石の集団たる山岳は、我等の魂のみそぎ場所となるのであります。
そして偉大なる自然の征服の喜び、此の喜びこそ眞に登山家のみの味ふことの出来る喜びであります。苦しい登高、其れは此の魂の洗礼を受ける喜びを得んが為に行はるるのであります。人は之を向上の精神と言ひます。
即ち此の登高の精神は、向上の精神の発露に外ならないのであります。此処に初めて登山がスポートとして偉大なる価値を持って来る様になったのであります。
欧州に於てはスイス及び英国山岳会を初めとして、大小の山岳会が多数ありまして、常に山岳研究を怠らないのであります。
翻って我国の山岳会を見るに、おしいかな我国には雪線を越える山氷河を湛へたる山は有りませんが、近時其の隆盛は驚く許りで、特に都下の学校で山岳部のない所はない様な盛況であります。
けれども運動界に於て、一方の重鎮である本校には残念ながら山岳会がないのであります。之を大へん遺憾として此処に山岳を渇仰する同志相集り、本部の設立を計ったのであります。些か本校の力を、雪を戴く山の頂に表したい微意に外ならないのであります。
特に本部を作りたいと思ったのはAlpen studyに対しexpedition或は exploreよりはmountain craftに一つの総った会がないと、各自の研究を発表するのに不便であるからに基因するのであります。何卒、学友会も此点に留意して益々御援助をして戴きたいのであります。